に中止解散を命じぬ。図《はか》らざりきこの船遊びを胡乱《うろん》に思い、恐るべき警官が、水に潜《ひそ》みてその挙動を伺《うかが》い居たらんとは。船中の人々は今を興|闌《たけなわ》の時なりければ、河童《かっぱ》を殺せ、なぐり殺せと犇《ひし》めき合い、荒立ちしが、長者《ちょうじゃ》の言《げん》に従いて、皆々|穏《おだ》やかに解散し、大事《だいじ》に至らざりしこそ幸いなれ。されど妾《しょう》の学校はその翌日、時の県令|高崎《たかさき》某より、「詮議《せんぎ》の次第《しだい》有之《これあり》停止《ていし》候事《そうろうこと》」、との命を蒙《こうむ》りたり。詮議の次第とは何事ぞ、その筋に向かいて詰問する所ありしかど何故《なにゆえ》か答えなければ、妾の姉婿《しせい》某が県会議員常置委員たりしに頼《よ》りてその故を尋《たず》ねしめけるに、理由は妾が自由党員と船遊びを共にしたりというにありて、姉婿さえ譴責《けんせき》を加えられ、暫《しばら》く謹慎《きんしん》を表する身の上とはなりぬ。
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  第二 上京


 一 故郷を捨つ

 政府が人権を蹂躙《じゅうりん》し、抑圧を逞《たくま》しうし
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