》みてお互いに尽す道は異《こと》なれども、必ず初志を貫《つらぬ》きて早晩自由の新天地に握手せんと言い交《か》わし、またの会合を約してさらばとばかり袂《たもと》を分《わか》ちぬ。アアこれぞ永久の別れとならんとは神ならぬ身の知る由《よし》なかりき。
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   第三 渡韓の計画


 一 妾の任務

 ある日同志なる石塚重平《いしづかじゅうへい》氏|来《きた》り、渡韓の準備|整《ととの》いたれば、御身《おんみ》をも具するはずなりとて、その理由およびそれについての方法等を説き明かされぬ。固《もと》より信ずる所に捧《ささ》げたる身の如何《いか》でかは躊躇《ためら》うべき、直ちにその用意に取りかかりけるに、かの友愛の心厚き中田光子《なかだみつこ》は、妾《しょう》の常ならぬ挙動を察してその仔細《しさい》を知りたげなる模様なりき。されど彼女に禍《わざわい》を及ぼさんは本意なしと思いければ、石塚重平氏に托《たく》して彼に勉学を勧《すす》めさせ、また於菟《おと》女史に書を送りて今回の渡航を告げ、後事《こうじ》を托し、これにて思い残す事なしと、心静かに渡韓の途《と》に上《のぼ》りけるは、明治十八年の十月なり。

 二 鞄《かばん》の爆発物

 同伴者は新井章吾《あらいしょうご》、稲垣示《いながきしめす》の両氏なりしが、壮士連の中には、三々五々|赤毛布《あかげっと》にくるまりつつ船中に寝転ぶ者あるを見たりき。同伴者は皆互いに見知らぬ風《ふう》を装《よそお》えるなり、その退屈さと心配さとはなかなか筆紙に尽しがたし。妾がこの行に加わりしは、爆発物の運搬に際し、婦人の携帯品として、他の注目を避くることに決したるより、乃《すなわ》ち妾《しょう》をして携帯の任に当らしめたるなり。かくて妾は爆発物の原料たる薬品|悉皆《しっかい》を磯山の手より受け取り、支那鞄《しなかばん》に入れて普通の手荷物の如くに装い、始終|傍《かたわ》らに置きて、ある時はこれを枕に、仮寝《うたたね》の夢を貪《むさぼ》りたりしが、やがて大阪に着しければ、安藤久次郎《あんどうきゅうじろう》氏の宅にて同志の人を呼び窃《ひそ》かに包み替えんとするほどに、金硫黄《きんいおう》という薬の少し湿《しめ》りたるを発見せしかば、鑵《かん》より取り出して、暫《しば》し乾《ほ》さんとせしに、空気に触《ふ》るるや否や、一面に青き火となり、今
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