奮する所あり、如何《いか》にもして、幾分の金《きん》を調《ととの》え、彼らの意志を貫徹せしめんと、即ち不恤緯《ふじゅつい》会社を設立するを名とし、相模《さがみ》地方に遊説し、漸く少数の金を調えたり。しかりといえども、これを以て今回計画中の費用に充《あ》つる能《あた》わず、ただ有志士《ゆうしし》の奔走費《ほんそうひ》位に充つるほどなりしゆえ、儂は種々|砕心粉骨《さいしんふんこつ》すといえども、悲しい哉《かな》、処女の身、如何《いかん》ぞ大金を投ずる者あらんや。いわんやこの重要件は、少しも露発を恐れ告げざるをや、皆徒労に属せり。因って思うに、到底|儂《のう》の如きは、金員《きんいん》を以て、男子の万分の一助たらんと欲するも難《かた》しと、金策の事は全く断念し、身を以て当らんものをと、種々その手段を謀《はか》れり。しかる処、偶※[#二の字点、1−2−22]《たまたま》日清も平和に談判|調《ととの》いたりとの報あり。この報たる実に儂《のう》らのために頗《すこぶ》る凶報なるを以て、やや失望すといえども、何《なん》ぞ中途にして廃せん、なお一層の困難を来《きた》すも、精神一到何事か成らざらん。かつ当時の風潮、日々朝野を論ぜず、一般に開戦論を主張し、その勢力実に盛んなりしに、一朝平和にその局を結びしを以て、その脳裏に徹底する所の感情は大いに儂らのために奇貨《きか》なるなからん乎《か》、この期失うべからずと、即ち新たに策を立て、決死の壮士を択《えら》び、先ず朝鮮に至り事を挙げしむるに如《し》かずと、ここにおいて檄文《げきぶん》を造り、これを飛ばして、国人中に同志を得、共に合力《ごうりょく》して、辮髪奴《べんぱつど》を国外に放逐《ほうちく》し、朝鮮をして純然たる独立国とならしむる時は、諸外国の見る処も、曩日《さき》に政府は卑屈無気力にして、かの辮髪奴のために辱《はずかし》めを受けしも、民間には義士烈婦ありて、国辱をそそぎたりとて、大いに外交政略に関する而已《のみ》ならず、一《いつ》は以て内《うち》政府《せいふ》を改良するの好手段たり、一挙両得の策なり、いよいよ速《すみ》やかにこの挙あらん事を渇望《かつぼう》し、かつ種々心胆を砕《くだ》くといえども、同じく金額の乏しきを以て、その計画成るといえども、いまだ発する能《あた》わず。大井、小林らは、ひたすら金策にのみ、従事し居たりしが、当地にお
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