○長く所謂《いはゆる》素人《しろうと》たれ、黒人《くろうと》たる莫《なか》れ。技やよしあしの何は問はず、黒人は存外まづいものなり、下手なものなり、いやでも黒人となりて、其処《そこ》に衣食するに及べば、已《すで》に早く一生の相場は定まれるものなり。之《これ》を素人より見るに、黒人ばかり物知らぬはなし、弁《わきま》へぬはなし。
○染めて返らぬ黒人が身は、進退共に一度づゝ、足を洗はざる可からず。素人は自在也。
○志《こゝろざし》は行ふものとや、愚《おろか》しき君よ、そは飢《うゑ》に奔《はし》るに過ぎず。志は唯《たゞ》卓を敲《たゝ》いて、なるべく高声《かうせい》に語るに止《とゞ》むべし。生半《なまなか》なる志を存せんは、存せざるに如かず、志は飯を食はす事なければなり。志は欠くも、飯は欠くを得ざればなり。
○さりとも志を棄てんは惜しき時、一策あり、精々《せい/″\》多く志を仕入れて、処《ところ》嫌はず之を振廻さん事なり。成功を見ずと雖《いへど》も、附け届けを見ん。脊負《しよひ》切れざる程なるをもて、志の妙となす。此《こ》れにも入るべし、彼《か》れにも加はるべし、推移するに憚《はゞか》らざるが
前へ 次へ
全6ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
斎藤 緑雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング