まかたぎなり》、虎《とら》の巻《まき》の一|節也《せつなり》。
      ○
夫《をつと》をして三井《みつゐ》、白木《しろき》、下村《しもむら》の売出《うりだ》し広告《くわうこく》の前に立たしむればこれある哉《かな》必要《ひつえう》の一|器械《きかい》なり。あれが欲《ほ》しいの愬《うつた》へをなすにあらざるよりは、毫《がう》もアナタの存在を認《みと》むることなし
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栄《さかえ》えよかしで祝《いは》はれて嫁《よめ》に来たのだ、改良竈《かいりやうかまど》と同じく燻《くすぶ》るへきではない、苦労《くらう》するなら一度|還《かへ》つて出直《でなほ》さう。いかさまこれは至言《しげん》と考へる。
      ○
黒縮《くろちり》つくりで裏《うら》から出て来たのは、豈斗《あにはか》らんや車夫《くるまや》の女房、一|町《てう》許《ばかり》行《ゆ》くと亭主《ていし》が待つて居《ゐ》て、そらよと梶棒《かぢぼう》を引寄《ひきよ》すれば、衣紋《えもん》もつんと他人行儀《たにんぎようぎ》に澄《す》まし返りて急いでおくれ。女房も女房|也《なり》亭主も亭主也、男女同権也《どだんじようけんなり》、五穀豊穣也《ごこくほうじようなり》、三|銭均一也《せんきんいつなり》。これで女房が車から下《お》りて、アイと駄賃《だちん》を亭主に渡せば完璧々々《くわんぺき/\/\》
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状使のこれは極《きは》めて急なれば、車に乗りて行《ゆ》けと命《めい》ぜられたる抱車夫《かゝへしやふ》の、御用《ごよう》となれば精限《せいかぎ》り駈《か》けて駈《か》けて必《かなら》ずお間《ま》は欠《か》かざるべし、されど車に乗ると云《い》ふは、わが日頃《ひごろ》の誓《ちかひ》に反《そむ》くものなれば仰《おほ》せなれども御免下《ごめんくだ》されたし、好《この》みてするものはなき賤《いや》しき業《わざ》の、わが身も共々《とも/″\》に牛馬《ぎうば》に比《ひ》せらるゝを耻《はぢ》ともせず、おなじ思《おも》ひの人の車に乗りて命をも絞《しぼ》らん汗《あせ》の苦しきを見るに忍《しの》びねばと、足袋《たび》股引《もゝひき》の支度《したく》ながらに答へたるに人々《ひと/\》其《その》しをらしきを感じ合ひしがしをらしとは本《もと》此世《このよ》のものに非《あら》ずしをらしきが故《ゆゑ》に此男《このをとこ》の此世《このよ》の車夫
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