》となるに、何《なに》一つわが方《かた》に貢《みつ》がぬは不都合《ふつがふ》なりと初手《しよて》云々《うん/\》の約束にもあらぬものを仲人《なかうど》の宥《なだ》むれどきかず達《たつ》て娘を引戻《ひきもど》したる母親|有之候《これありそろ》。聞けば此《この》母親娘が或《ある》お屋敷《やしき》の奥向《おくむき》に奉公中《ほうこうちう》臨時《りんじ》の頂戴物《てうだいもの》もある事なればと不用分《ふようぶん》の給料を送りくれたる味の忘られず父親のお人よしなるに附込《つけこ》みて飽迄《あくまで》不法《ふはふ》を陳《ちん》じたるものゝ由《よし》に候《そろ》。さては此《この》母親の言ふに言はれぬ、世帯《せたい》の魂胆《こんたん》もと知らぬ人の一旦《いつたん》は惑《まど》へど現在の内輪《うちわ》は娘が方《かた》よりも立優《たちまさ》りて、蔵《くら》をも建つべき銀行貯金の有るやに候《そろ》。間然《かんぜん》する所なしとのみ只《たゞ》今となりては他《た》に申すやうも無之候《これなくそろ》
      ○
娘売らぬ親を馬鹿《ばか》だとは申し難《がた》く候《そろ》へども馬鹿《ばか》見たやうなものだとは申得《まうしえ》られ候《そろ》。婿《むこ》を買ふ者あり娘を売る者あり上下《じやうげ》面白き成行《なりゆき》に候《そろ》
      ○
裾《すそ》曳摺《ひきず》りて奥様《おくさま》といへど、女は竟《つい》に女|也《なり》当世《たうせい》の臍繰《へそくり》要訣《えうけつ》に曰《いわ》く出るに酒入《さけい》つても酒《さけ》、つく/\良人《やど》が酒浸《さけびた》して愛想《あいそう》の尽《つ》きる事もございますれど、其代《そのかは》りの一|徳《とく》には月々《つき/\》の遣払《つかひはら》ひに、少々《せう/\》のおまじないが御座《ござ》いましても、酔《よ》つて居《ゐ》れば気の附《つ》く事ではございませぬ。
      ○
縦令《たとへ》旦那様《だんなさま》が馴染《なじみ》の女の帯《おび》に、百|金《きん》を抛《なげう》たるゝとも儂《わたし》が帯《おび》に百五十|金《きん》をはずみ給《たま》はゞ、差引《さしひき》何の厭《いと》ふ所もなき訳也《わけなり》。この権衡《つりあひ》の失《うしな》はれたる時に於《おい》て胸《むな》づくしを取るも遅《おそ》からずとは、これも当世《たうせう》の奥様気質也《おくさ
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