分は消えて行く片靨《かたえくぼ》俊雄はぞッと可愛げ立ちてそれから二度三度と馴染《なじ》めば馴染むほど小春がなつかしく魂《たまし》いいつとなく叛旗《はんき》を翻えしみかえる限りあれも小春これも小春|兄《にい》さまと呼ぶ妹《いもと》の声までがあなたやとすこし甘たれたる小春の声と疑われ今は同伴の男をこちらからおいでおいでと新田足利勧請文《にったあしかがかんじょうもん》を向けるほどに二ツ切りの紙三つに折ることもよく合点《がてん》しやがて本文通りなまじ同伴あるを邪魔と思うころは紛れもない下心、いらざるところへ勇気が出て敵は川添いの裏二階もう掌《て》のうちと単騎|馳《は》せ向いたるがさて行義よくては成りがたいがこの辺の辻占《つじうら》淡路島通う千鳥の幾夜となく音ずるるにあなたのお手はと逆寄せの当坐の謎《なぞ》俊雄は至極御同意なれど経験《ためし》なければまだまだ心|怯《おく》れて宝の山へ入りながらその手を空《むな》しくそっと引き退け酔うでもなく眠《ねぶ》るでもなくただじゃらくらと更《ふ》けるも知らぬ夜々の長坐敷つい出そびれて帰りしが山村の若旦那《わかだんな》と言えば温和《おとな》しい方よと小春が顔に
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