の気もなく瞻《なが》めいたるにまたもや大吉に認《みつ》けられお前にはあなたのような方《かた》がいいのだよと彼を抑えこれを揚ぐる画策縦横大英雄も善知識も煎《せん》じ詰めれば女あっての後《のち》なりこれを聞いてアラ姉《ねえ》さんとお定まりのように打ち消す小春よりも俊雄はぽッと顔|赧《あか》らめ男らしくなき薄紅葉《うすもみじ》とかようの場合に小説家が紅葉の恩沢に浴するそれ幾ばく、着たる糸織りの襟《えり》を内々直したる初心さ小春俊雄は語呂《ごろ》が悪い蜆川《しじみがわ》の御厄介《ごやっかい》にはならぬことだと同伴《つれ》の男が頓着《とんじゃく》なく混ぜ返すほどなお逡巡《しりご》みしたるがたれか知らん異日の治兵衛はこの俊雄|今宵《こよい》が色酒《いろざけ》の浸初《しみはじ》め鳳雛麟児《ほうすうりんじ》は母の胎内を出《い》でし日の仮り名にとどめてあわれ評判の秀才もこれよりぞ無茶となりける
 試みに馬から落ちて落馬したの口調にならわば二つ寝て二ツ起きた二日の後俊雄は割前の金届けんと同伴《つれ》の方《かた》へ出向きたるにこれは頂かぬそれでは困ると世間のミエが推《お》っつやっつのあげくしからば今|一夕《
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