書授与式以来の胸|躍《おど》らせもしも伽羅《きゃら》の香の間から扇を挙げて麾《さしまね》かるることもあらば返すに駒《こま》なきわれは何と答えんかと予審廷へ出る心構えわざと燭台《しょくだい》を遠退《とおの》けて顔を見られぬが一の手と逆茂木《さかもぎ》製造のほどもなくさらさらと衣《きぬ》の音、それ来たと俊雄はまた顫えて天にも地にも頼みとするは後なる床柱これへ凭《もた》れて腕組みするを海山越えてこの土地ばかりへも二度の引眉毛《ひきまゆげ》またかと言わるる大吉の目に入りおふさぎでござりまするのとやにわに打ちこまれて俊雄は縮み上り誠恐誠惶《せいきょうせいこう》詞《ことば》なきを同伴《つれ》の男が助け上げ今日|観《み》た芝居|咄《ばなし》を座興とするに俊雄も少々の応答《うけこた》えが出来夜深くならぬ間と心むずつけども同伴の男が容易に立つ気色《けしき》なければ大吉が三十年来これを商標と磨《みが》いたる額の瓶《びん》のごとく輝《ひか》るを気にしながら栄《は》えぬものは浮世の義理と辛防《しんぼう》したるがわが前に余念なき小春が歳《とし》十六ばかり色ぽッてりと白き丸顔の愛敬《あいきょう》溢《こぼ》るるを何
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