をかかすべからずと強《し》いられてやっと受ける手頭《てさき》のわけもなく顫《ふる》え半ば吸物椀《すいものわん》の上へ篠《しの》を束《つか》ねて降る驟雨《しゅうう》酌《しゃく》する女がオヤ失礼と軽く出るに俊雄はただもじもじと箸《はし》も取らずお銚子《ちょうし》の代り目と出て行く後影を見澄まし洗濯はこの間と怪しげなる薄鼠色《うすねずみいろ》の栗《くり》のきんとんを一ツ頬張《ほおば》ったるが関の山、梯子段《はしごだん》を登り来る足音の早いに驚いてあわてて嚥《の》み下し物平《ものへい》を得ざれば胃の腑《ふ》の必ず鳴るをこらえるもおかしく同伴《つれ》の男ははや十二分に参りて元からが不等辺三角形の眼をたるませどうだ山村の好男子美しいところを御覧に供しようかねと撃て放せと向けたる筒口俊雄はこのごろ喫《の》み覚えた煙草の煙《けぶり》に紛らかしにっこりと受けたまま返辞なければ往復|端書《はがき》も駄目のことと同伴《つれ》の男はもどかしがりさてこの土地の奇麗のと言えば、あるある島田には間があれど小春《こはる》は尤物《ゆうぶつ》介添えは大吉《だいきち》婆《ばば》呼びにやれと命ずるをまだ来ぬ先から俊雄は卒業証
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