《むしく》いがいよいよ別れの催促客となるとも色となるなとは今の誡《いまし》めわが讐敵《あだ》にもさせまじきはこのことと俊雄ようやく夢|覚《さ》めて父へ詫《わ》び入り元のわが家へ立ち帰れば喜びこそすれ気振《けぶ》りにもうらまぬ母の慈愛厚く門際《もんぎわ》に寝ていたまぐれ犬までが尾をふるに俊雄はひたすら疇昔《きのう》を悔いて出入《ではい》りに世話をやかせぬ神妙《しんびょう》さは遊ばぬ前日《ぜん》に三倍し雨晨月夕《うしんげっせき》さすが思い出すことのありしかど末のためと目をつぶりて折節橋の上で聞くさわぎ唄も易水《えきすい》寒《さぶ》しと通りぬけるに冬吉は口惜《くや》しがりしがかの歌沢に申さらく蝉《せみ》と螢《ほたる》を秤《はかり》にかけて鳴いて別りょか焦れて退《の》きょかああわれこれをいかんせん昔おもえば見ず知らずとこれもまた寝心わるく諦《あきら》めていつぞや聞き流した誰やらの異見をその時初めて肝《きも》のなかから探り出《いだ》しぬ
観ずれば松の嵐《あらし》も続いては吹かず息を入れてからが凄《すさ》まじいものなり俊雄は二月三月は殊勝に消光《くらし》たるが今が遊びたい盛り山村君どうだねと下地
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