発火の予防も施しありしに疵《きず》もつ足は冬吉が帰りて後一層目に立ち小露が先月からのお約束と出た跡尾花屋からかかりしを冬吉は断り発音《はついん》はモシの二字をもって俊雄に向い白状なされと不意の糺弾《きゅうだん》俊雄はぎょッとしたれど横へそらせてかくなる上はぜひもなし白状致します私母は正《まさ》しく女とわざと手を突いて言うを、ええその口がと畳|叩《たた》いて小露をどうなさるとそもやわたしが馴れそめの始終を冒頭に置いての責道具ハテわけもない濡衣《ぬれぎぬ》椀の白魚《しらお》もむしって食うそれがし鰈《かれい》たりとも骨湯《こつゆ》は頂かぬと往時権現様得意の逃支度冗談ではござりませぬとその夜冬吉が金輪奈落《こんりんならく》の底尽きぬ腹立ちただいまと小露が座敷戻りの挨拶《あいさつ》も長坂橋《ちょうはんきょう》の張飛《ちょうひ》睨んだばかりの勢いに小露は顫え上りそれから明けても三国割拠お互いに気まずく笑い声はお隣のおばさんにも下し賜わらず長火鉢の前の噛楊子《かみようじ》ちょっと聞けば悪くないらしけれど気がついて見れば見られぬ紅脂白粉《べにおしろい》の花の裏路今までさのみでもなく思いし冬吉の眉毛の蝕
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