下げ]
故郷の、山田の乙女、濡れつつや、早苗とるらん、五月雨の空。
訪ふ人も、なき憂き宿は、五月闇、雨の音にぞ、なぐさまれける。
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鉄窓に倚りて、夕間暮、遠く市中の灯火を眺めつゝ。
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螢とも、見てなぐさまん。鉄の窓、へだつる町の、ともし火の影。
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蝉声
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明日知らぬ、露の命を思へばや、夕闇かけて、蝉の鳴くらん。
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構外に笛声を聞きて、戯に。
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夕闇に、声も忍びて、吹く笛を、あはれ、よそにや君は聞くらん。
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人目なき、浮世の外と、思ひしに、夢驚かす、暁の鐘。
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秋もやゝ近く来ぬらし、夕されば、音づる軒の風の寂しさ。
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雁の声を聞きて
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別れにし、春のまゝなる、憂き宿の、枕にまたも、かりがねの声。
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虫声
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うきふしの、旅寝の身さへ、忘れけり。枕に近き虫の声々。
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