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旅なる人を思うて
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君が行く方も知らねど、夕されば、空のかただに、ながめぬるかな。
夕間暮、軒の草葉の、そよぐさへ、君がたよりの、風と見るかな。
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七夕
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一と年に、今夜ばかりは、渡守、天の川舟、はやも漕がなん。
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不図目ざめけるに、隈なき月光、玻璃窓より差入りで、枕を照らす。
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草枕、露も涙も、あらはなる、寝覚め恥づかし、武蔵野の月。
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九月八日、我が生まれし日なれば、故郷の空思ひ乱れて。
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故郷は、荒れまさるとも、菊の花、今日は忘れず、咲きにほふらん。
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控訴公判期日の近く迫りける頃、戯に。
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故郷に、誰れ帰るとて、立田姫、紅葉の錦、織りて待つらん。
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十月五日、公判始めて開かるゝ日、東京控訴院の監房にて、母の身をのみ思ひ耽りつゝ、
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言葉にも、顔にも出さで、たらちねは、東の空や、
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