眺めたまはん。
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同じくは、露に濡れても、きりぎりす、野辺に鳴く音を、尋ねてしかな。
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木葉散りて、八重洲橋上の行人、窓より見ゆ。
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木の葉散りて、居ながら見ゆる人影を、世に珍らしく思ひぬるかな。
今はまた、春のかたみと、何を見ん。しぐれの雨に、柳散りけり。
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夜もすがら、しぐるる空を、玉水の、絶えぬ軒端の音に聞くかな。
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監房の造作、船室の如しなど、人々笑ひ興じければ、
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思ふとも、空吹く風の、甲斐なくて、浪にまかする、船の道かな。
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久方の、空飛ぶ鳥も、迷はぬを、道なき世とは誰か言ひけん。
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十一月十八日、公判。雨降る。
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今日しもぞ、干さんと待ちし我が袖を、時雨の雨に、またしぼるかな。
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同じき日の夕暮、控訴院よりの帰途、馬車の内にて。
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濡るるとも、いとひはせじな、夕時雨、明日の晴れなん、空をたのめば。
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