、きくものを、何をいそぎて、花の散るらん。
    ○
散る花の、流れて行けば、川下に、また物思ふ人やあるらん。
柴人か、つま木に添ゆる花見れば、深山の春ぞ、恋しかりける。
降る雨に、散りしく梨の花見れば、春の日ながら、寂しかりけり。
    ○
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我無言にして、牢獄の苦をも解せざるものゝ如しなど、同房の人々誹りければ。
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神にさへ、見せじと思ふ、口なしの、花の心を、知る人もがな。
    ○
降るとしも、空には見えず、花の上の、露のみまさる、雨の夕暮。
    ○
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春の暮るゝ日
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惜めども、限ありけり。行く春の、今を別れの、入相の鐘。
    ○
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春の行きける明けの朝
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色あせて、散りかふ花も、今朝はまた、春のかたみと、恋しかりけり。
    ○
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白き夏の衣を恵まれける人への返し
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桜花、たよりも聞かで過ぎつれば、春なき年と、思ひぬるかな。
    ○
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五月雨の頃
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