けき春は、旅衣、うすひの関も、知らで過ぎけり。
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六日七日両夜、上州松井田泊。
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のどかなる春の山辺も、夕暮の、鐘の音こそ、さびしかりけれ。
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八日夜、武州本庄泊。翌くる朝顧みて、浅間嶽の独り高く雲表に聳ゆるを遙に望み。
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浅間山、峯の白雪、まだ深し。春は、碓氷の関や隔つる。
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途上即興
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ささ濁る、里の小川に袖濡れて、誰が妹ならむ、根芹つむなり。
ほのかにも、去年の面影残るかな。霞かくれの遠山の雪。
若草の野辺に打ち連れ、憂き今日の、春を昔に、語る日もがな。
浅緑、春の野もせと一とつらの、川瀬のどかに、白帆行くなり。
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九日午時過ぐる頃、東京着、直ちに鍛冶橋監獄に入る。
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よそにのみ、都の春を、ながめつつ、雪ふる郷の、空ぞ恋しき。
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梅の花咲く頃
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払はでぞ、ながめしなまし、白雪の、降るもおかしき、梅のあけぼ
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