竃も、立つ烟にぞ、世に知られける。
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峠の道にて
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去年ながら、つもれる雪の消えそめて、今日ぞ深山も、春は来ぬらし。
たどり行く、深雪の山のあなたには、霞たな引き、春ぞ見えける。
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保福寺峠を下り行くに、日漸く暮れて、鳥[#「鳥」は底本では「島」]の声寂し。
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沢水に、鴨ぞ啼くなる。春を浅み、浮き寝の床や、寒けかるらん。
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上田警察署泊。雲間の月をながめて。
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たまたまに、影は見えつつ、村雲を、払ふ風なき、夜半の月かな。
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翌六日朝、汽車にて上田を立つ。浅間山の麓を行く。
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烟だに、見てなぐさまん。春霞、浅間の峯は、立ちなかくしぞ。
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碓氷峠を越ゆるに、春風暖く、そゞろ眠を催す。
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人知れぬ、霞かくれの花もあらん。香をだにつてよ、春の山風。
鴬の古巣と見ゆる、谷かげに、まだ去年ながら、雪ぞ残れる。
吹く風も、のど
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