と云ふものを、宿屋の女中に着せて貰ひ、愈々宮中の式場へ出掛けると云ふ朝、郷里の政友へ書いた左の書翰を一読せよ。
[#ここから1字下げ]
「拝啓。幾多の志士仁人が十余年の辛酸遂に空しからず、今日紀元節の佳辰に当り、恐多くも 至上陛下には憲法発布の式を挙行し給ふ。御同慶至極に候。昨夜は余りの嬉しさに眠れ不申候。是より参列の栄に浴する都合に候。実は吾々県会議長は、拝観のことと決定せられ居りしも、種々交渉の上、遂に参列と云ふことに致させ申候。民軍の幸先上々吉にて、何卒御喜び被下度、右御報告申上候。何《いづ》れ帰郷の上、参館色々申上べく候へ共先づ本日の御祝迄。※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々頓首」
[#ここで字下げ終わり]
この文中「拝観」と「参列」とにつき一寸君の注意を求める。初め政府が定めて置いた式場の順序には、県会議長席は「拝観人」の中へ逐ひ込んであつた。この不都合を発見したのは、田中であつた。今日未だ議会が開かれざる間、人民の代表者と云へば県会議長の外に無い。我々こそ今日憲法発表式場の主体でなければならぬ。拝観とは何事ぞや――この議論を以て県会議長達を説き廻はり、一致団結して
前へ
次へ
全46ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング