に世の視聴を驚かした一二を挙げるならば
一、足尾鉱毒事件。
二、星亨事件。
三、社会党事件。
社会党に対する先生の境界は、先に既に言うたから、今、他の二件に就てその経過を語る。
(一) 足尾鉱毒事件と先生
三十四年の十一月、先生は田中正造翁と同伴で、渡良瀬川沿岸の鉱毒地を視察された。帰つて見えてのお話に、『驚いたのは、二三年前に見た村々が、殆ど跡方もなく零落して居る。この窮民は懶惰でもなく、天災でもなく、全く政治の罪悪の結果で、社会はこれが責任を負担せねばならぬ。特に寒天を眼前に控へた今日、食なき者に食を分ち、衣なき者に衣を分つは急務の人情である。従来の鉱毒問題と云ふものは、有志家の政治運動であつたが、これとは全く関係なく、同胞愛の発動として、婦人の手に信頼したい』
僕は熱心に賛成した。
『然らば何人の手に托したらば可いでせう』
当時、かゝる社会的方面に希望ある婦人と言へば、基督教婦人矯風会の外には何も無い。婦人矯風会と云ふものは、随分長い歴史を持つて居るものだが、年々公娼廃止及び禁酒の請願書を議会へ儀式の如く提出する外には、殆ど何もして居ない。僕はこの矯風会と云ふも
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