自由の使徒・島田三郎
木下尚江

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)輦轂《れんこく》の下、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]声に

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ボツ/\
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   幸福なる思ひ出

 若き友よ。
 僕が島田三郎先生を語るとなれば、直ぐに一つの場面が目に浮ぶ。
 大正十二年、この年は正月早々から先生は身心の疲労で、議会へも出なされず一切来客を謝絶して、番町の自邸で静養して居られた。かゝる時、僕のやうな世務に全く無交渉の者は幸福で、時々お邪魔して、自由にお話することが出来た。
 或日、先生は、この社会多事の時に、病体で引き籠つて居るのが如何にも恥づかしいと言はれるので、僕は強く頭を振つて反対した。
『僕は然うは思ひません。先生が過去幾十年、言論文章で奮闘なされたよりも、今日病んで黙つて居なさる方が、何程大事業か知れないと、僕は信じて居ます』
『それは、
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