加減のことをするわけには参らぬ。その事が果して必要な条件であり、また私の方針持論が国の不利益横浜市の不利益と云ふことなればその理由を悉く話され、互に胸襟を開いて講究するは別段なれど、只理由なく申込まれ、私が木村君の競争を避ける為に、条件付の申込にお答へ申すことは出来ない。国家公共の利害横浜市実際の利害と云ふ明瞭なる理由から互に説を尽すは宜いが、たゞ円滑の為に事情の為に抂げることは出来ない。私は何時の競争でも負けることのあるを覚悟して居る。少数で負けたら、尚ほ多数の同意を得るまで待つのが、代議政体の本体で、内閣が国会で負けて潔く辞職すると同じ道理だから、負けるのは恥でないが、故なく説を抂げるのは、この上もなく良くないことゝ思ふ。――一生の働から見れば、一時負けた方が、説を曲げて勝つより宜いと覚悟して居る。一時の為に条件を承諾し、それで嘘言を吐くと云ふことは、後来私の一身に関することであるから出来ない』かう云ふのが初めの挨拶であります云々」
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此時、反対派の木村候補者からの「無競争」と云ふ申込には、実は深酷な意味があつたのだ。前年即ち二十五年の有名な選挙干渉の時、
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