ママ」の注記]部井と云ふ老人は、「非内地雑居」を唯一の主張とする大日本協会の領袖だ。

  政府の圧迫に勝つ

 この時は第二次伊藤博文内閣で、陸奥宗光が外務大臣であつた。陸奥はこの励行案を鎖国論だと言うて攻撃し、これが為めに議会は解散となつた。次の選挙の第一目標は無論条約励行論だ。政府の手は先生の選挙区へも潜入した。政府の目から見たらば、横浜と云ふ日本の玄関に条約励行論者が居ると云ふことは、非常な障碍であつたに相違ない。その事は二十七年二月二十五日、立候補演説の速記の中に見える。先生は冒頭にかう言うて居る。
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「今回、木村利右衛門君と私との競争に就て、その争点を申す必要があると考へます。木村君よりの申込に対し本月八日某々二君に面会致しました。その趣意は、『足下の人となりに就ては不同意はないが、二つの条件がある。その一つは監獄費国庫支弁案に賛成して呉れい。今一つは条約励行案の賛成を取消して貰ひたい。この二件は横浜市の利益であるから、さうすれば競争しない』と、かう云ふことでござりました。私は『左様なる条件を付けたる約束は一切出来ない。と云ふものは、私の心を欺いて可い
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