第四巻予告の小さな印刷物が出て来た。僕が署名して居る。
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「攘夷主義は、幕府の末黒船始めて来航した時のみの迷信ではない。時代と共に少しく言語を変へただけで、其精神は少しも変らずに今日我国民の血管を滝津瀬の如く音立てゝ流れ狂つて居る。攘夷思想は民族神的信仰の産児である。故に第一に宗教問題である、道徳問題である。斯くて内治外政一切の問題である。学者思想家政治家達が、皆な此の氷山の如き伝統的圧力の前に萎縮逡巡忌避諂佞、其の暴威に触れないやうにと努めた時、島田先生は常に其の独自中正の脚地に立ちて、堅信博学、機に会ひ事に遇ふ毎に此の固陋の民心を啓発することを怠りなさらなかつた。明治二十二年条約改正騒擾の際に於ける「条約改正及び内地雑居」、日清戦後我が国民が悪魔の如くに露国を憎む際に於ける「日本と露西亜」、日本が始めて内地雑居の幕を開く時、僧侶神官等が無智の民衆の恐怖心に投合して妄言誣説を流布せる際の「対外思想の変遷」、是等時代に先だちて、国民の進路と目標とを指示せる著作文章は、真に先生の為に不朽の自画像であると共に、今日、此の昏迷の社会の為に、自省と悔悟とを促がすべき、清鮮
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