とは決して現出せざりしことを信ずるなり。往時を追懐すれば、被害民が時に常識以外の言動に出づるに及べる者は政府の不信切は正に其の主要なる原因と言はざるべからず。
余は「鉱毒問題」の根本的解釈を得ることの一日も早く来らんことを望まざるべからず。未だ根本的解釈を得るに及ばずして、数※[#二の字点、1−2−22]《しば/\》被害民の激動を起こし、社会をして常に其悲哀に泣かしむるが如きは、余の窃かに政府の為めに採らざる所なり。而して余は是れ畢竟《ひつきやう》、政府と被害民との間に一巨溝の横はりて、相互の意志毫も相通ずるなきに原因することを発見せり。
余は鉱毒地人民に就て多く其の談話を聞きたり。また婦人等の感情をも之を聞きたり。而して彼等は皆な最後に余に向て訴へて曰く「政府は己等を如何になさんとの御思召にや」と。アヽ余は不幸にして政府の意志を知らざるなり。故に余は彼等の哀訴に向て一言半語の満足をだに与ふる能はざるを悲まずんばあらず。然れ共余は今ま幸に彼等人民の情態と意志と希望とを聊《いさゝ》か写して之を政府に通じ得ることを喜ぶなり。
地方官吏の誤解
中央政府は地方官吏の口と手とを通じて、
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