雲龍寺とは、鉱毒被害民の事務所となせる所にして、渡良瀬村字早川田に在り、栃木県の被害民等は帰途また此の事務所に立ち寄れるもありき。之を見るや彼等警官は腕力を以て人民を引き出だし、之に加ふるに乱打を以てせり。彼等人民は這《は》ふ/\居村へ逃れり。是れ当時同寺に居合はせたる者が共に証明して語れる所なり。
此の数者は警察官たるべき者が正当に執《と》れる職務なりと言ふべからず。是れ決して一個警官の事に非ず、日本の警察の威信に関係する重大なる問題なり。吾人は直に之を内務当局者の責任に問はんと欲するなり。
而して事は、解散前に掛れりと雖も、問題の警察に関するが為めに、爰《こゝ》に附記すべき一事あり。其は他に非ず、館林警察署が一旦野口春蔵と言へるを捉らへながら、之を解放したる一事に在り。同警察署の弁ずる所を聞くに曰く、始め野口は騎馬の儘にて多衆を引き連れ、警察署の門を入りて悪言を放てり。故に居合はせたる警官は、野口を捉らへて署内に連れ来れり。然るに多衆人民は野口を回復せんとて、押し来りければ之を防ぐの力に乏しく、人民等の欲するまに/\一旦之を放還せりと。
人民等は曰く、然らず、警官は署前に擁して、野
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