散後、館林附近の酒店或は飲食店等に立ち寄りて、其口腹を満たさんとするや、警官は則ち立ち入りて之を引き出だし、店主に対しては其の代金は警察署へ請求すべしと言へり。而して彼等店主は其夜、館林警察署へ出頭して時ならぬ混雑を醸《か》もせり。是れ亦た余が多くの口より同音に聞取したる所なり。
一、警官の「万歳」 此の奇怪なる報道を齎《もた》らせる者は只《た》だ一人なるが故に、余は之を語れる者の姓名を明記すべき要あり、是れ即ち上野村大字船津川の小野熊次郎と言へる人の談なり。同人も亦た被害民一行の一人なりき。解散後、六郷村字大佐貫と言へる或る民屋に入り、警官等の逐撃を避けん為めに、其の簑笠《さりつ》の装を解きつゝあるや一警部は其の後圃へ入り来れり。彼れ曰く是れ正に館林警察署長なりと。而して警部が一笛吹き上ぐるや、数十名の巡査は集り来れり。而して彼等は互に其の負傷もなくかの一行を退散し得たるを誇りつゝ、大声を放ちて万歳を連呼せり。余は館林警察署長に向て、若し其の事実に非ざる事を主張せんと欲せば、是れが挙証の責任あることを信ずる者なり。
一、雲龍寺の暴行 館林警察署長は巡査を引率して、再び雲龍寺に来れり。
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