から、少こし考へものなんだが、お前《めえ》、妾なら気楽なもんだあネ、厭《いや》になつたら何時でも左様《さやう》ならをキメるまでサ――大洞《おほほら》さんもサウ仰《おつ》しやるんだよ、決して長くとは言はない、露西亜《ロシヤ》の戦争《いくさ》が何方《どつち》とも定《き》まるまでの所、厭《いや》でもあらうが花ちやんに、放鳥の機嫌《きげん》を取つて貰はにやならないのだからつて――私《わたし》だつて、赤児《あかんぼ》の時から手塩にかけたお前《めえ》のことだもの、厭だつてもの無理にと言ひたかないやね、けれど平素《いつも》利益《ため》になつてる大洞さんのお依頼《たのみ》と云ひ、其れにお前も知つての通りの、此の歳暮《くれ》の苦しさだからこそ、カウやつて養女《わがこ》の前へ頭を下げるんぢやないか、お前《めえ》是れでも未だ解からねえのかエ」
 花吉はがツくり島田の寝巻姿《ねまきすがた》、投げかけし体《からだ》を左の肱《ひぢ》もて火鉢に支《さゝ》へつ、何とも言はず上目遣《うはめづか》ひに、低き天井、斜《なゝめ》に眺めやりたるばかり、
 お六は煙草|燻《くゆ》らしつ、「一昨日《をとゝひ》の晩も『浪の家』から、
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