が、母親の方は非常な剣幕《けんまく》で、生涯楽隠居の金蔓《かねづる》を題無しにしたと云ふ立腹です、――女性《をんな》と云ふものは、果して此《かく》の如く残忍酷薄なものでせうか」
 丸井玉吾は鹿爪《しかつめ》らしく首傾け「成程――花ちやん何《どう》でげすな」
「丸井さん、ほんとに女性《をんな》の方が酷《ひど》いんですよ」
 篠田は首打ち振りぬ「其れが女性《をんな》の本来でせうか――必竟《ひつきやう》女性を鬼になしたる社会の罪では無いでせうか」
 丸井は禿顱《あたま》を撫《な》でぬ「御最《ごもつとも》で」
 襟かき合はせて花吉は、目を閉ぢぬ、

     十

 烏森は新春野屋の長火鉢を中に、対座したる主婦《あるじ》のお六と芸妓《げいしや》の花吉、
「ぢや、花吉、お前|何《どう》するツて云ふんだ」と、お六は簪《かんざし》もて頭掻きつゝ、顔打ちしかめ「濁水《どろみづ》稼業をして居る身の、思ふ男に添ひ遂げることの出来ない位は、お前《めえ》だつて、百も承知だらうぢやないか、是れが松島さんの奥様《おくさん》になれつて云ふのなら野暮な軍人の、おまけに昔気質《むかしかたぎ》の姑《しうと》まであるツてえ
前へ 次へ
全296ページ中97ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング