――私も百方慰め励まして、無分別のこと仕ない様に注意して、丁度《ちやうど》、夜の十時過、老母《ばゝ》が待つてるからと、帰つて行きましたが、翌朝新聞を見ますると、職工の芸妓殺《げいぎころし》と云ふ二号|題目《みだし》の二版がある、――アヽ、何故《なぜ》無理にも前夜一泊させなかつたかと、実に悔恨《くわいこん》の情に堪へませんでした」
 篠田は暫《しば》らく瞑目《めいもく》しつ「昨日も監獄へ参つて面会致しましたが、彼れも実に夢の様であると申して居ました、――何でも西本願寺辺まで来ました時が、既に十二時近くであつたさうですが、何《いづ》れの家も寝静まつた深夜の、寂寞《せきばく》の月を践《ふ》んで来るのが、小米である、ハタと行き当つたので、兼吉の方から名を呼びかけると、婦人《むかふ》は『イヽエ、米《よね》ではありません、米は最早《もう》死んで仕舞ひました、是れは迷つてる米の幽霊です』と云つて面《かほ》をそむけて仕舞《しま》つたさうです、兼吉の言ひますに、其れ迄は記憶して居るが後は何《どう》したか少しも覚えない、不図《ふと》気が付いて見ると、自分は左腕《ひだり》で血に染まつた小米の屍骸《しがい》を
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