やん、頭の禿《は》げたなどは特別恐れ入りやしたわけで」と丸井は赤光《あかびかり》の脳天ポンと叩いて首を縮む、
「御免の毒様でしたワねエ」と花吉も口を掩《おほ》うてホヽと笑ふ、

     九の四

「大事な所を禿顱《はげあたま》で、花ちやんにケチを付けられて仕舞《しま》つた、デ、篠田先生、其れから何《どう》なりました、全《まる》で小説の様でげすなア」と、丸井玉吾は煙草《たばこ》に点火しつゝ後を促《うな》がす、
「所で、今ま貴女の仰《おほ》せられた金山と言ふ大名華族の老人が、其頃|小米《こよね》と申す婦人を外妾《めかけ》の如く致して居たので、雇主《やとひぬし》――其の芸妓屋《げいしやや》に於ては非常なる恐慌《きやうくわう》を喫《きつ》し、又た婦人の実母《はゝ》からは、独断に廃業などして、小千円の負債の為めに両親が訴へられても顧みない量見かと云ふ様な脅迫に及ぶ、婦人も実に進退|谷《きは》まつて、最後の書状を兼吉へ送り越したのです、――到底《たうてい》自分は此の苦境を逃がれることの出来ぬ何等過去の業果と思ふから、此の肉体をば餓鬼《がき》の如き男子の飜弄《ほんろう》に一任するが、然《し》かし郎
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