することが出来なかつたのであることを疑はないと云ふのです」
「ほんたうに小米さんの様な温順《やさし》い人はありませんでしたよ」と、花吉は、吐息《といき》を漏《も》らしぬ、
「左様《さう》であつたとのことですナ」と篠田は首肯《うなづ》き「然《しか》らば君、少しも憚《はばか》る所は無い、速《すみやか》に彼女《かれ》を濁流より救ひ出だして、其愛情を全うするが可《よ》いと、忠告致しました、所が彼は躊躇《ちうちよ》して、けれど彼女《かれ》は千円近くの借金を背負《しよ》つてるのでと悶《もだ》へますから、何を言ふのだ、霊魂を束縛する繩が何処に在ると励ましたのです」
「へヽヽヽ先生、御得意の自由廃業でげすな」と、丸井はツルリ禿頭《あたま》を撫でぬ、
「左様です、不道徳なる負債は、弁償の義務がありません、否《い》な、弁償を迫る権利がありません、――それで婦人も非常に喜んだサウです、所が何とか云ふ貴族院議員が――」
 と篠田の暫《し》ばし其名を思ひ出し得ざるに、花吉が「あの、金山《かなやま》伯爵でせう、――小米さんも嫌《いや》がつて居たんですよ、頭の禿《は》げた七十近い老爺《おぢい》さんでしてネ」
「花ち
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