がネ、女将《おかみ》さんに一寸来て何とかして貰ひたいツて仰《おつ》しやるんですよ」
お才は美しき眉《まゆ》の根ピクリ顰《ひそ》めつ「チヨツ、松島の海軍だつて言はぬばかりの面《つら》して、ほんとに気障《きざ》な奴サ――其れに又た花ちやんも何《ど》うしたんだネ」
「いゝえネ、湖月の送別会とかへ行つてるので、未《ま》だ貰へないんですもの」
「しやうが無いネ、今夜あたり其様《そんな》所へ行かなくツても可《い》いぢやないか」
「オホヽヽヽだつて女将《おかみ》さん、其れも芸妓《げいしや》の稼業ですもの」
お才も嫣然《にこり》歯を見せつ「だがネ、彼妓《あのこ》の剛情にも因つて仕舞《しま》ふのねエ、口の酸つぱくなる程言つて聞かせるに、松島さんの妾など真平《まつぴら》御免テ逃げツちまふんだもの」
「そりや女将さん、仮令《たとへ》芸妓だからつて可哀さうですよ、当時流行の花吉でせう、それに菊三郎と云ふ花形|俳優《やくしや》が有るんですもの、松島さん見たいな頓栗眼《どんぐりまなこ》の酒喰《さけぐらひ》は、私にしても厭《いや》でさアね」
「だツて、妾にならうが、奥様にならうが、俳優買《やくしやか》ひ位のこと
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