》して居る程です、思ふに我々の播《ま》ける種子《たね》を培《つちか》ふものは、彼等の手でせうよ」
「サウ、赤門《あかもん》にせよ、早稲田《わせだ》にせよ、一生懸命社会主義を拒絶して居るに拘《かゝは》らず、講堂の内面では却《かへつ》て盛に其の卵が孵化《ふくわ》されて居るんだから、実に多望なる我々の将来ぢやないか」と渡部は豊かなる頬に笑波《せうは》を湛《たゝ》へぬ、
「ヤ、君、最早《もう》一時だ」と阪井は時計を手にしながら「是《こ》れから淀橋《よどばし》まで歩るくのか」
「けれ共、君、幸《さいはひ》に雨は止んだ」
「オヽ、星が照らして居るわ、我々の前途を」   

     八の一

 築地《つきぢ》二丁目の待合「浪の家」の帳場には、女将《ぢよしやう》お才の大丸髷《おほまるまげ》、頭上に爛《きら》めく電燈目掛けて煙草《たばこ》一と吹き、長《とこしな》へに嘯《うそぶ》きつゝ「議会の解散、戦争の取沙汰《とりざた》、此の歳暮《くれ》をマア何《ど》うしろツて言ふんだねエ」
 折柄バタ/\走《は》せ来れる女中のお仲「松島さんがネ、花吉さんが遅いので、又たお株の大じれ込《こみ》デ、大洞《おほほら》さん
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