は、差当り御協議したいと思つたことは、是れで終結を告げました――少こし時間《とき》は後《おく》れましたが、他に御相談を要する件がありますならば――」
 外国通信委員|渡部伊蘇夫《わたべいそを》は卓上に堆積せる書類の中より一片紙《いつぺんし》を取り上げつ「露西亜《ロシヤ》のペテルブスキイ君から今日《こんにち》、倶楽部宛の書面が来ました、順々に御覧下ださいませうか」
 烟草《たばこ》燻《く》ゆらし居たる週報主筆|行徳秋香《かうとくあきか》「渡部さん、恐れ入りますが、お序《ついで》にお誦《よ》み下ださいませんか」「其れが可《い》い」「どうぞ」
「ぢや、読みませう」渡部は起てり、
[#ここから1字下げ]
 主義に於《おい》て常に相親交する、未《ま》だ見ぬ日本の兄弟諸君、
 余は今ま露西亜《ロシヤ》に於ける同志に代りて之を諸君に書き送らんとするに際し、憤慨の情と感謝の念と交々《こもごも》胸間に往来して、幾度《いくたび》も筆を投じて黙想に沈みしことを、幸に諒察《りやうさつ》せよ、
 今や日本の政府と露西亜の政府とは戦場に向《むかつ》て急ぎつつあり、露西亜国民の或者は日本を以て一個の狡狼《かうらう》
前へ 次へ
全296ページ中68ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング