ホダされて、ツイ、心の秘密を明かしたのです――で、婆や、なんだか生意気らしいこと言ふ様だがネ、誰でも人は胸に燃え立つ火の塊《かたまり》を蔵《をさ》めて居るものです、火の口を明けて其を外へ噴《ふ》き出さぬ程心苦しいことはありませぬ、世の中の多くは其れを一人の男《かた》に献げて満足するのです、けれど、若《も》し其がならぬ揚合には、尤《もつと》も悩んでる多くの兄弟姉妹の上に分配《わけ》るのが一番道に協《かな》つた仕方かと思ふのでネ」
「ぢや、お嬢様も其れを一人の男《かた》にお上げなされば可《い》いぢや御座いませんか」
「さア――」と、梅子は行きなやみぬ、
「どうも、お嬢様、貴嬢《あなた》のお胸には何某殿《どなた》か御在《おあり》なさるに相違御座りません、――御嬢様、婆やの目が違《ち》がひましたか」
 梅子は差しうつむきて復《ま》た無言、
「お嬢様、貴嬢は婆やを其れ程までにお隔てなさるので御座りますか、お情ないことで御座ります、あゝ、お情ないことで御座ります」
 梅子は唇《くちびる》かみしめて、胸を押へつ、
「婆や――私《わたし》も――女性《をんな》だよ――」
 固く閉ぢたる瞼《まぶた》を溢《
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