婆や、ほんたうに申訳がないのネ、お前が其様《そのやう》に心配してお呉れだから、私《わたし》の心を打ち明けますがネ、私は決して人選びをして居るのぢやないのです、私は疾《と》うから生涯《しやうがい》、結婚しないと覚悟して居るのですからネ」
「いゝえ、お嬢様、其様《そん》なこと仰《おつ》しやつても、此婆は聴きませぬ、御容姿《ごきりやう》なら御才覚なら何に一つ不足なき貴嬢様《あなたさま》が、何の御不満で左様《さやう》なこと仰つしやいます、では一生、剛一様の御厄介におなり遊ばして、異腹《はらちがひ》の小姑《こじうと》で此世をお送り遊ばす御量見で在《いら》つしやいまするか」
「婆や、さうぢやありませぬ、私《わたし》は現在《いま》の様に何も働かずに遊んで居るのを何より心苦く思ふのでネ、――どうぞ貧乏町に住まつて、あの人達と同じ様に暮らして、生涯《しやうがい》其の御友達になりたいと祈つて居るのです」
「ヘエ――」と老婆は暫《し》ばし梅子の顔打ちまもりつ「それは、お嬢様、御本性《ごほんしやう》で仰つしやるので御座りますか」
「何で虚欺《うそいつはり》を言ひませう」と、梅子は首肯《うなづ》き「婆やの親切に
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