ま》の思ひ込みなされた御方が御ありなさるので御座りますか、貴嬢も十九《つづ》や廿歳《はたち》とは違ひ、亡奥様《せんのおくさま》は貴嬢の御年には、モウ、貴嬢を膝《ひざ》に抱いて在《い》らしつたので御座いますもの、何の御遠慮が御座いませう、是《こ》ればかりは御自分の御気に協《かな》うたのでなければ末始終《すゑしじゆう》の見込が立たぬので御座いますから、――奥様は何と仰《おつ》しやらうとも、旦那様は彼《あ》の様に貴嬢のことを深く御心配遊ばして在《い》らつしやるので、御座いますから、キツと婆から良い様に御取りなし致します、御嬢様、ツイかうと婆に御洩らし下さりませぬか」
 梅子は依然|言《ことば》なし、
「御嬢様、其れは余りでは御座いませぬか、婆《ばあ》や婆やといたはつて下ださる平生《いつも》の貴嬢《あなたさま》の様にも無い――今日も奥様が例《いつも》の御小言で、貴嬢の御納得なさらぬのは私《わたし》が御側で悪智恵でも御着け申すかの御口振、――こんな口惜《くやし》いことは御座いません、此儘《このまゝ》死にましては草葉の蔭の奥様に御合せ申す顔が無いので御座います」
 老婆は横向いて鼻打ちかみつ、

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