、何卒|天晴《あつぱれ》な婿《むこ》を取らせたいと思ふんで、松島は少こし年を取過ぎて且《か》つは後妻と云ふのだから、梅にはチと気の毒ではあるが、何せよ今ま海軍部内では第一の幅利《はばき》き、愈々|露西亜《ロシヤ》との戦争でもあれば少将か中将にもならうと云ふ勢、梅の良人《をつと》として決して不足が有るとは思はれぬ、其上大洞にせよ自分にせよ、一《ひ》と通《とほり》ならぬ関係があるので、懇望《こんまう》されて見ると何分にも嫌《いや》と云ふことが言はれないハメのだから、此処《こゝ》を能《よ》く呑《の》み込んで承知して欲しいのだと、此婆に迄頭を下げぬばかりの御依頼《おたのみ》なんで御座います――此婆にしましてが、亡《せんの》奥様《おくさま》にお乳を差上げ、又た貴嬢《あなたさま》をも襁褓《むつき》の中からお育て申し、此上貴嬢が立派な奥様におなり遊ばした御姿を拝見さへすれば、此世に何の思ひ残すことも御座いません、寧《いつ》そ御決心なされては如何《いかが》で御座ります」
 梅子は机に片肘《かたひぢ》もたせしまゝ、繙《ひもと》ける書上に、空しく視線を落とせるのみ、
「それとも、お嬢様、外に貴嬢《あなたさ
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