、印刷までしたプログラムから弁士の名まで削られたんでせう、普通の人で誰がソンな所へ行くものですか、先頃も与重《せがれ》が青年会のことで篠田様に何か叱かられて帰つて来ましてネ、僕は篠田先生の為めなら死んでも構はんて言ふんです、――教会も最早《もう》駄目です、神様の代りに、黄金《かね》を拝むんですから」

     五の二

 何万坪テフ庭園の彼方《かなた》此方《こなた》に設けたる屋台店《やたいみせ》を、食ひ荒らして廻はる学生の一群《ひとむれ》、
「オイ、大橋君、梅子さんが見えぬやうぢやないか」
「又た井上の梅子さん騒ぎか、先刻《さつき》一寸見えたがナ、僕は何だか気の毒の様に感じたから、挨拶もせずに過ぎたのサ、彼女《むかう》でも成るべく人の居ない方へと、避《さけ》てる様子であつたからナ、山木見たいな爺《おやぢ》に梅子さんのあると云ふは、君、正に一個の奇跡だよ」
「ほんたうに左様《さう》だネ、悪魔と天女、まア好絶妙絶の美術的作品とはアレだらうか、僕は昨夜《ゆうべ》も演説会で、梅子さんの為めに、幾度同情の涙を拭いたか知れないのだ、彼《あ》の美しき歌も震《ふるひ》を帯んで、洋琴《オルガン》は全く
前へ 次へ
全296ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング