を発見せり、中に一人|年老《としと》れるは則《すなは》ち先きに篠田長二の陋屋《ろうをく》にて識《し》る人となれる渡辺の老女なり「井上の奥様《おくさん》、一寸御覧なさい、牧師さんの奥様が、きつと又た例の諂諛《おべつか》を並べ立ててるんですよ、それに軽野《かるの》の奥様《おくさん》、薄井《うすゐ》の嬢様《ぢやうさん》、皆様お揃《そろ》ひで」
井上の奥様《おくさん》と呼ばれたる四十|許《ばか》りの婦人、少しケンある眼に打ち見遣《みや》りつ「申しては失礼ですけれど、あれが牧師の妻君などとは信者全体の汚涜《けがれ》です、なにも山木様の別荘なぞ借りなくとも、親睦会は出来るんです、実に気色に障《さ》はりますけれどネ、教会の御祝だと思ふから忍んで参つたのです――其れはサウと、老女《おば》さん、篠田様《しのださん》は今日御見えになるでせうか、ほんとに、御気の毒で、私《わたし》ネ、篠田様のこと思ふと腹が立つ涙が出る、夜も平穏《おつちり》と眠《ね》られないんです、紀念式にも咋夜の演説会にも彼《あ》の通り行らしつて、平生《いつも》の通り聴《きい》てらツしやるでせう、自分が逐《お》ひ出されると内定《きま》つて
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