たとへ》乞食になるとも厭《いと》はぬと言ふ御覚悟でせう、面《かほ》は花の様に御美しう御座いましたが、心の雄々しく在《い》らしつたことは兎《と》ても男だつて及びませんでしたよ、山木さんの辞職なされたのも、つまり奥様の御勧《おすゝめ》だと其頃一般の評判でしたの、――其れから奥様は学校の教師《せんせい》をなさる、山木様は新聞を御書きになつたり、演説をして御歩きになつたりして、奥様はコンな幸福は無いツて喜んで在らつしやいましたが、感冒《おかぜ》の一寸こじれたのが基《もと》で敢《あへ》ない御最後でせう――私は尋常《ひとかた》ならぬ御恩《おめぐみ》に預つたもんですから、おしまひ迄御介抱申し上げましたがネ、先生、其の御臨終の御立派でしたこと、四十何度とか云ふ高熱で、普通の人ならば夢中になつて仕舞ふ所ですよ、――山木様の御手を御握《おにぎり》になりましてネ、何卒《どうぞ》日本の政道の上に基督《キリスト》の御栄光《おんさかえ》を顕《あら》はして下ださる様、必ず神様への節操《みさを》をお忘れなさるなと仰《お》つしやいましたが、山木様が決して忘れないから安心せよと御挨拶《ごあいさつ》なさいますとネ、奥様は世
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