がおありなさると云ふばかりで、彼様《あんな》汚《けが》れた男に、此の名高い教会を自由にされるとは何と云ふ怨《うら》めしいことでせう」
老女は又も面《おもて》を掩《おほ》うてサメザメと泣きぬ、
老女は鼻打ちかみつ、「けども先生、山木さんも昔日《むかし》から彼様《あんな》では無かつたので御座いますよ、全く今の奥様が悪いのです、――私《わたし》は毎度《いつも》日曜日に、あの洋琴《オルガン》の前へ御座りなさる梅子さんを見ますと、お亡《なくなり》なさつた前の奥様を思ひ出しますよ、あれはゼームスさんて宣教師さんの寄進なされた洋琴で、梅子さんの阿母《おつか》さんの雪子さんとおつしやつた方が、それをお弾《ひ》きなすつたのです、丁度《ちやうど》今の梅子さんと同じ御年頃で、日曜日にはキツと御夫婦で教会へ行らつしやいましてネ、山木さんも熱心にお働きなすつたものですよ、――拍子《ひやうし》の悪いことには梅子さんの三歳《みつ》の時に奥様がお亡《なくなり》になる、それから今の奥様をお貰ひになつたのですが、貴様《あなた》、梅子さんも今の奥様には随分|酷《ひど》い目にお逢ひなさいましたよ、ほんたうに前の奥様はナカ
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