に柔和《にうわ》に、主《しゆ》の栄光を顕《あわ》はすことです――私の名が永阪教会の名簿に在《あ》ると無いとは、神の台前に出ることに何の関係もないことです、教会の皆様を思ふ私の愛情は、毫《すこし》も変はることが出来ないです、老女《おば》さんは何時《いつ》迄《まで》も老女さんです」
 老女は何時しか頭《かしら》を垂れて膝《ひざ》には熱き涙の雨の如く降りぬ、
 良《やゝ》久《ひさし》くして老女は面《おもて》押し拭《ぬぐ》ひつ、涙に赤らめる眸《ひとみ》を上げて篠田を視上げ視下ろせり「どしたら、貴郎《あなた》のやうな柔和《やさし》いお心を持つことが出来ませう――其れに就《つ》けても理も非もなく山木さんの言ふなり放題になさる、牧師さんや執事さん方の御心が、余り情ないと思ひますよ――私見たいな無学文盲には六《むづ》ヶ|敷《しい》事は少しも解りませぬけれど、あの山木さんなど、何年にも教会へ御出席《おいで》なされたことのあるぢや無し、それに貴郎、酒はめしあがる、芸妓買《げいしやがひ》はなさる、昨年あたりは慥《たし》か妾を囲《かこ》つてあると云ふ噂《うはさ》さへ高かつた程です、只《た》だ当時|黄金《かね》
前へ 次へ
全296ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング