《あなた》ネ、井上の奥様《おくさん》の御話では青年会の方々も大層な意気込で、若《も》し篠田さんを逐ひ出すなら、自分等も一所に退会するツてネ、井上|様《さん》の与重《よぢゆう》さん杯《など》先達《せんだつ》で相談最中なさうですよ、先生、何《ど》うして下ださる御思召《おぼしめし》ですか」
 篠田は僅《わづか》に口を開きぬ「私《わたし》の故に数々《しば/\》教会に御迷惑ばかり掛けて、実に耻入《はぢい》る次第であります、私を除名すると云ふ動機――其の因縁《いんねん》は知りませぬが、又たそれを根掘りするにも及びませぬが、しかし其表面の理由が、私の信仰が間違つて居るから教会に置くことならぬと云ふのならば、老女《おば》さん、私は残念ながら苦情を申出《まうしいで》る力が無いのです、教会の言ふ所と私の信仰とは慥《たしか》に違つて居るのですから――けれど、老女さん教会の言ふ所と私の信仰と、何《どち》らが神様の御思召に近いかと云ふ段になると、其を裁判するのは只だ神様ばかりです、只だ御互に気を付けたいのは、斯様《かやう》なる紛擾《ごた/\》の時に真実、神の子らしく、基督《キリスト》の信者らしく謙遜《けんそん》
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