ばならねのだけれど、会長が何しても山木さんで、副会長が牧師の奥さんと来て居るんだから、手の出し様が無いツて、涙を流して怒つて居らつしやるのです、私も驚いてしまひましてネ、明日は早朝に参つて先生の御量見を伺ひませうツてお別れしたのです、先生まア何《ど》うしたら可《い》いので御座いませう」
懸河《けんが》滔々《たう/\》たる老女の能弁を鬚《ひげ》を弄しつゝ聴き居たる篠田
「老女《おば》さん、其れは何事ですか、私《わたし》には毫《すこし》もわかりませぬが」
「先生、何です御わかりになりませぬ――まア驚いたこと――先生、貴郎《あなた》を教会から逐《お》ひ出す相談のあるのを未《ま》だ御存知ないのですか」
「あア、其《それ》ですか」と篠田の軽く首肯《うなづ》くを、老女は黙つて穴の開《あく》ばかりに見つめたり、
三の二
渡辺の老女は不平を頬に膨《ふく》らして「あア其れですかどころぢや有りませんよ、先生、貴郎《あなた》が今《い》ま厳乎《しつかり》して下ださらねば、永阪教会も廿五年の御祝で死んで仕舞ひます、御祝だやら御弔《おとむらひ》だやら訳が解《わ》からなくなるぢやありませんか、貴郎
前へ
次へ
全296ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング