窓白く雪の夜は明けんとす、
 篠田は例《いつも》の如く早く起き出でて、一大|象牙盤《ざうげばん》とも見るべき後圃《こうほ》の雪、いと惜しげに下駄を印《いん》しつゝ逍遙《せうえう》す、日の光は尚《な》ほ遙《はる》か地平線下に憩《いこ》ひぬれど、夜の神が漉《こ》し成せる清新の空気は、静かに来り触れて、我が呼吸を促《うな》がす、目を放てば高輪三田の高台より芝山内《しばさんない》の森に至るまで、見ゆる限りは白妙《しらたへ》の帷帳《とばり》の下《もと》に、混然《こんぜん》として夢尚ほ円《まどか》なるものの如し、
 篠田の双眸《さうばう》は不図《ふと》、円山《まるやま》の高塔に注がれて離れざるなり、静穏なる哉《かな》、芝の杜《もり》よ、幽雅なる哉《かな》、円山の塔よ、去れど其の直下、得も寝で悲み、夜を徹して祈れるもの一人あり、美しき雪よ、彼女の目より涙を拭《ぬぐ》へ、清《すず》しき風よ、彼女の胸より愁《うれひ》を払へ――アヽ我が梅子、汝《なんぢ》の為めに祈りつゝある我が愛は、汝が心の鼓膜《こまく》に響かざる乎《か》、――父なる神、永遠《とこしなへ》に彼を顧み給へ、彼女に聖力《みちから》を注ぎて、爾
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