」と、彼は大和を呼んで兼吉の老母を招きぬ、
声を呑むで泣き居たる兼吉の老母は、涙の顔を揚げも得ずして打ち伏しぬ、
「梅子さん、此の老女を労《いたは》つて下ださい、是れは先頃|芸妓殺《げいぎころし》と唄《うた》はれた、兼吉と云ふ私の友達の実母です、――老母《おつかさん》、私は、或は明日から他行《たぎやう》するも知れないが、少しも心置なく此の令嬢《かた》に御信頼《おたより》なさい、兼吉君は無論無罪になるのであるから、少しも心配なく、其れに若《も》し両個《ふたり》が相許るすならば、花ちやんと結婚したらばと思つて居るのです、元より強ふることは出来ないですが」
篠田は梅子を顧みつ「只今慈愛館に居りまするが、花と云ふ婦人が在《あ》るのです、元《も》と芸妓《げいしや》でありまするが、余程精神の強固なのですから、将来|貴嬢《あなた》の御事業の御手助となるも知れませぬ、」
梅子は思はず赧然《たんぜん》として愧《は》ぢぬ、彼女《かれ》の良心は私語《さゝや》けり、汝《なんぢ》曾《かつ》て其の婦人の為めに心に嫉妬《しつと》てふ経験を嘗《な》めしに非ずやと、
兼吉の老母は正体なき迄《まで》に咽《むせ》び
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