》けり「ア、貴嬢《あなた》ですか」
「あの、御在宅でいらつしやいますか――是非御面会せねばならぬことが御座いますので」
 深夜の雪道に凍《こゞ》えてや、婦人の声の打ち震《ふる》ひて聞えぬ、
「暫《しばら》くお待ちを願ひます」と、大和は急ぎ篠田の書斎へと走せぬ、
「先生――」驚愕《きやうがく》と怪訝《けげん》とに心騒げる大和の声は甚《いた》くも調子狂ひたり、
 既に文書|認《したゝ》め了《おは》りし篠田は、今や聖書|繙《ひもと》きて、就寝前の祈祷《きたう》を捧げんとしつゝありしなり、
 彼は静かに顧みぬ「大和君、何です」
「――只今、あの、山木の梅子さんが御光来《おいで》になりました」
「ナニ、梅子さんが――」篠田も首傾けぬ「お一人でか」
「左様《さう》です、何か至急の御要件ださうで御座いまして、是非御面会をと云ふことです」
「ウム此の雪中を御光来《おいで》は尋常のことでは有るまい、――早速に」
 梅子は大和に導かれて篠田の室に入り来りぬ、肉やゝ落ちて色さへ甚《いた》く衰へて見ゆ、彼女《かれ》は言葉は無くて只《た》だ慇懃《いんぎん》に頭《かしら》を下げぬ、
「良久《しばらく》御目に掛りま
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