のだ、其れに梅子さん――何《どう》も不思議だ、何故《なぜ》社会は虚誕《きよたん》を伝へて喜ぶのだらう、が、烟《けむり》の立つ所必ず火ありとも云ふぞ、――然《し》かし僕が若し婦人ならば矢張り左様《さう》思ふかも知れない、僕が先生を斯《か》く思ふの情、是れが女性の心に宿れば恋となるのかナ――アヽ、何卒《どうか》先生に思ふ存分、腕を伸ばさして上げたいナ」
 風又た吹き加はりぬ、雪の音はげし、
 門戸に低く人の声す、
 大和は耳を聳《そばだ》てぬ、戸を叩《たゝ》く音なり、
 何人《なんぴと》の何等緊急事ならん、此の寒き雪の深夜に――大和は訝《いぶ》かりつゝ立つて戸を開きぬ、
 吹き巻く雪中、門燈を背にして、黒き影一個立てり、

     二十九の二

「何殿《どなた》です」と、大和《おほわ》が雪明《ゆきあかり》にすかして問ふを、門前の客は袖《そで》の雪払ひも敢《あ》へず、ヒラリとばかり飛び込めり、
 東《あづま》コートに御高祖頭巾《おこそづきん》、――アヽ是《こ》れ婦人なり、
 大和は眼を円《まる》くして怪しげに見つめぬ、
「大和さん」、婦人の声に、大和は愕然《がくぜん》として一歩|退《しりぞ
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